| 今月の論語 (2025年12月) |
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修己安人(しゅうこあんじん)
子路(しろ)、君子(くんし)を問う。
子(し)曰(のたま)わく、
己を脩(おさ)めて以(もっ)て敬(けい)す。
曰(い)わく、斯(か)くの如(ごと)きのみか。
曰(のたま)わく、己を脩めて以て人を安(やす)んず。
曰(い)わく、斯くの如きのみか。
曰(のたま)わく、己を脩めて以て百姓を安んず。
己を脩めて以て百姓を安んずるは、
堯(ぎょう)・舜(しゅん)も
其(そ)れ猶(なお)諸(これ)を病(や)めり。
子路問君子。子曰、脩己以敬。曰、如斯而已乎。曰、脩己以安人。曰、如斯而已乎。曰、脩己以安百姓。脩己以安百姓、堯舜其猶病諸。
(憲問第十四、仮名論語二二四・二二五頁)
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〔注釈〕子路が君子の条件について尋ねた。先師は「自分の身を修め、人を敬うことだ」と答えられた。子路は更に「それだけでしょうか」と尋ねた。先師は「自分の身を修め、人を安んずることだ」と答えられた。子路はなお「それだけでしょうか」と尋ねた。先師は「自分の身を修めて天下万民を安んずることだ。天下万民を安んずることは、堯・舜のような聖天子でも、頭をなやまされたことだ」と答えられた。
〔和歌〕君子こそ 敬もて修め 更に又 人をも民も 安ずる人 (見尾勝馬)
会長 目黒泰禪
日本に初の女性首相が誕生した。日経新聞「首相官邸」のスケジュールを振り返って読むと、すさまじい。
高市早苗首相は、10月21日に就任して五日後の、25日に東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議のためマレーシアに飛び、その夜にホテルからトランプ米大統領と初めての電話協議をした。26日にはフィリピンのマルコス大統領と会談。議長国のアンワル首相とオーストラリアのアルバニージー首相とも会談。27日早朝に帰国。28日にはトランプ大統領を迎賓館で出迎え首脳会談。北朝鮮による拉致被害者家族と大統領との面会にも同席。秋の園遊会に出席した後、大統領と共に専用ヘリコプター「マリーンワン」で米海軍横須賀基地内の原子力空母「ジョージ・ワシントン」の甲板に降り立ち、艦内の米兵らの歓声に応えた。29日にインドのモディ首相と電話、夜には欧州連合(EU)のフォンデアライエン委員長とも電話会談。30日昼にアジア太平洋経済協力会議(APEC
)首脳会議出席のため韓国に向けて出発、李在明大統領と会談。翌31日に中国の習近平国家主席と会談。11月1日にAPEC首脳会議で各国首脳と交流後、カナダのカーニー首相と会談、さらに台湾代表の林信義特使とも会談した。
いずれの国の指導者とも距離を感じさせない姿は誇らしい。「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」実現のための濃密かつ有意義な12日間と、首相自身が総括していたが、確かに首脳間の良好な関係を築いた外交ウイークは見事である。かつて「Trust me(私を信じてください)」とオバマ米大統領に言った某首相はいたが・・・。
『論語』の憲問篇に、弟子の子路が孔子に指導者としての要件を尋ねた章句がある。孔子は「自分の身を修め、人を安んずることだ(修(しゅう)己(こ)安(あん)人(じん))」と答えられ、なおそれだけでしょうかの質問に、「自分の身を修め、天下万民を安んずることだ」と答えられた。核兵器を持つロシア、北朝鮮そして中国と対峙する今日、各国首脳としっかり向き合える指導者の存在なくして日本国民は安心できない。
さて外交の次は、物価高対策を含む経済対策で国民を安心させてもらいたい。真価はこれからである。高市首相の人格に裏打ちされた挙措に日本の行方がかかっている。堯舜も悩んだという「修己安人」の首相として期待しつつ、国歩を見守りたい。
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