今月の論語 (2025年7月)
請学稼圃(せいがくかほ)

樊遲(はんち)、稼(か)を學(まな)ばんと請(こ)う。
子(し)曰(のたま)わく、
吾(われ)老(ろう)農(のう)に如(し)かず。
圃(ほ)を爲(つく)ることを學ばんと請う。
曰わく、吾老圃(ほ)に如かず。

樊遲請學稼。子曰、吾不如老農。請學爲圃。曰、吾不如老圃。(子路第十三、仮名論語一八三頁)


〔注釈〕樊遅が穀物の作り方を教えて頂きたいと願った。先師が言われた。「私は、熟練した百姓には及ばないよ」。樊遅は更に野菜の作り方を教えて頂きたいと願った。先師が言われた。「私は、熟練した農家には及ばないよ」。

〔和歌〕子はのらす われ老農に あらざれば 稼の道こそは つゆ心得ね
 (見尾勝馬)

今月の論語 会長 目黒泰禪

 5㎏4200円の高価で入荷も少ない一般銘柄米(二四年産)に対して、随意契約で放出された政府備蓄米(古古米)5㎏2000円のお米が、店頭に並び始めた。首都圏から離れた我々のところにはまだであるが、この『論語の友』が届く頃には、近くの店舗でも買えるのではと期待している。年金生活者の我々には朗報である。それにつけても、競争入札で放出された備蓄米(古米)は、どこに行ってしまったのだろう。お米が主食の日本で、凶作でもないのに、これほど高騰し出回らないのは不思議である。政府はお米農家がやりがいを失うような農政を変えねばならない。

 『論語』子路篇に、弟子の樊遅が民の困窮を見かねて、孔子に穀物や野菜の作り方を尋ねる場面がある。勿論、孔子は農家ではない。「私は老練な篤農家に及ばない」とにべもないが、「上に立つものが礼と義と信をすすんで守れば、四方の民は子どもを連れてでも農耕をするだろう」とも加えた。樊遅が隣国斉との戦いで武勲をたて、孔子は十四年間にわたる漂泊困苦の生活に終止符を打ち祖国魯に迎えられたのが、哀公十一年、孔子はすでに六十八歳になっていた。「五穀分かたず(穀物の見分けもできない)」の先生と揶揄されていた孔子に、樊遅は「請(せい)学(がく)稼(か)圃(ほ)(農耕を学びたい)」と真剣そのものであった。

 それというのも、『春秋左氏伝』によると、樊遅が弟子となった翌年の、哀公十二年の秋に「螽(しゅう)あり(蝗(こう)害(がい))」、更に十三年の夏と秋にも「螽あり」、そして十四年には「饑(う)う(飢饉)」に見舞われた。二年間続いたバッタ襲来による農作物被害(蝗害)がもたらした飢饉である。斉の名宰相管仲の言葉「倉(そう)廩(りん)実(み)ちて則ち礼節を知り、衣食足りて則ち栄(えい)辱(じょく)を知る」(『管子』)を、樊遅は知っていたに違いない。その上での「請学稼圃」である。

 世界が新型コロナウイルス感染拡大に向き合っていた二〇二〇年一月、国連食糧農業機関(FAO)は、アフリカ東部のエチオピアやケニア、ソマリヤで、サバクトビバッタの大群が農作物を食い荒らし、1200万人ほどが食糧危機の状態にあると指摘した。二月には、群れがペルシャ湾を超えてインド、パキスタンにまで移動していると警告した。1億匹ほどの大群で、一日150㎞を移動する。国連によると、当時最も被害の深刻なケニアでは、1000億~2000億匹のバッタが約2400㎢の範囲で農作物を襲ったというから、凄まじい。

 今年のお米の収穫量はどうであろうか。5㎏3000円位なら新米を食べてみたい。ところで、稲に被害をもたらす害虫「イネカメムシ」の越冬個体が六十年ぶりに増えているとの気がかりな報道があった。地球温暖化によりイネカメムシが越冬できるようになったのも要因で、耕作放棄地にも潜んでいるため根絶が難しいという。困難にうちかつお米農家の頑張りに期待したい。瑞穂の国の樊遅が増えることを願いつ。

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