今月の論語 (2025年6月) |
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闕疑闕殆(けつぎけったい)
子(し)曰(のたま)わく、
多く聞きて疑わしきを闕(か)き、
愼(つつし)みて其(そ)の餘(あま)りを言えば、
則(すなわ)ち尤(とがめ)寡(すく)なし。
多く見て殆(あやう)きを闕(か)き、
愼(つつし)みて其(そ)の餘(あま)りを行えば、
則(すなわ)ち悔(くい)寡(すく)なし。
子曰、多聞闕疑、愼言其餘、則寡尤。
多見闕殆、愼行其餘、則寡悔。
(爲政第二、仮名論語一八・一九頁)
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〔注釈〕先師は言われた。「できるだけ多く聞いて、疑わしいことは除き、用心して確かなことだけを言うようにすれば、人からとがめられることは少ない。多く見てあやふやなことはさけて、確かなことだけを用心して行うようにすれば、後悔することは少ない」。
〔和歌〕言行は つゝしむべけれ 言行に 尤(とが)悔(くい)なくば 祿(ろく)や來たらむ (見尾勝馬)
今月の論語 会長 目黒泰禪
『論語』の為政篇に、孔子の「闕疑闕殆(けつぎけったい)」という言葉がある。「多くの人の意見を聞き、多くの人の行動を見て、疑わしいことや危ういことを避けて(闕疑闕殆)、慎重に言ったり行ったりすれば、人からとがめだてされることも後悔することもないだろう」がそれである。
関税で世界を振り回すトランプ大統領は、この言葉を御存知ないか。議会承認の不要な大統領令を乱発し、一方的に曖昧な情報を発信する。王冠をかぶった肖像画なら愛嬌のうち、ローマ教皇を模した合成画像を自ら発信するに至っては、おふざけも度が過ぎる。あと在任期間は千三百日余り、米国民の胸中や如何に。米ニューヨーク・タイムスによるとトランプ支持率はあまり下がっていない。
確かに、トランプ大統領は、国民の四分の一を占める福音派プロテスタントの主張と票田には積極的に応えている。福音派にとって『旧約聖書』も『新約聖書』も無謬(むびゅう)で神の言葉である。「人間を神のかたちに創造し、男と女とに創造された」(創世記一章)とあり、DEI(多様性、公平性、包摂性)を排除し、性的少数者を認めない。名門大学への補助金凍結もいとわない。
トランプ大統領は、一期目で、エルサレムをイスラエルの首都として公式に認めている。ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区へのユダヤ人の入植も容認。二期目では、イスラエル軍のガザ地区占領をあえてとめない。『旧約聖書』は、神がアブラハムに「カナンの全土(現在のイスラエルとパレスチナ自治区、レバノン南部やヨルダンの一部など)を、あなたとあなたの後のあなたの子孫に永遠の所有として与える」(創世記一七章)と約束している。また『新約聖書』では、エルサレムはイエス・キリストが人間の罪を背負い十字架にかかり、復活を通して人間の罪を贖う場である。「聖なる都、新しいエルサレムが、神のみもとを出て、天から下って来る」(黙示録二一)神の都でもある。
異教徒の私が、せめて神の言葉以外の「闕疑闕殆」を願っても、『論語』の文言は中国製であると100%の関税をかけられたりはしまい。
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