今月の論語 (2024年2月)
夫子木鐸(ふうしぼくたく)

天下の道(みち)無きや久し。
天(てん)將(まさ)に夫子を以(もっ)て
木鐸と爲(な)さんとす。

天下之無道也久矣。天將以夫子爲木鐸。
(八佾第三、仮名論語三五頁)

〔注釈〕(関守が弟子たちに語った)「天下に道の行われないのが久しいので、天が先生を木鐸として、道を知らせようとされているのです」

会長 目黒泰禪

 能登半島地震で亡くなられた方々に心より哀悼の意を表し、ご冥福をお祈り申し上げます。

 元朝、家で掲げた日の丸に日本と皇室の安寧を祈って新しい年が始まった。神仏に手を合せ国家安泰と家内安全、特に昨年は二人して相次ぐ病で病院通いをしただけに「家門(いへかど)高く身(み)健(すこやか)に」と祈った元日であった。お屠蘇でまどろんだ午後四時八分、「地震よ。ニュース見て」との娘からの電話に、すぐテレビのスイッチを入れた。崩壊した家屋とゆがんだ道路の映像。「逃げてください!津波が来ます!すぐに逃げてください」のアナウンサーの声。しだいに増える死者と行方不明者。二十九年前の阪神淡路大震災の記憶が蘇り、胸が締めつけられた。

 今も続く余震と日本海をわたる寒気が先の見えない不安を増幅させるが、被災された皆様には何とか頑張って、この苦難をしのいで戴きたい。ある海外メディアが「地震が日本の強靭さを示している」と伝えていた。建物や道路等の耐震性の強度ではない。日本人の自然災害に対する精神の強さを伝えたかったのである。確かに、日本人には身を寄せ合いながら、共に乗り越えようとする気概がある。意識するしないに拘らず、日本人は皆、伊弉諾(いざなぎ)伊弉冉(いざなみ)二柱の祖神(おやがみ)から産まれた同胞(はらから)の国柄である。一日夜、天皇皇后両陛下は翌二日の一般参賀中止のご意向を示された。大御宝(おおみたから)(国民)安かれと、祈られる天皇陛下がおられる国体である。他者を気づかい思いやる日本人であること、世界に類のない万世一系の天皇を奉戴する国体、国土も自然万物までも同じ祖神から産みだされたという国柄を、我々の世代が次の世代へしっかりと伝えなければならない。

 孔子が自分の理想と信念が合う国を探して諸国を遍歴した時、衛の国境にある儀の関守が孔子と会見した後に、居合わせた弟子たちに「天下に道の行われないのが久しいので、天が先生を木鐸として、道を知らせようとされているのです」と語った。

 木鐸を振りふり斯の道を逝く 果の見えざる斯の道を   壺中庵主人

 平成二十七年の正月号に村下好伴先生が詠まれた自由律である。SNSやチャットGPT等の生成AIの進化は、むしろ日本人の精神や日本の国体をゆるがせにするような気がしてならない。我々団塊の世代が率先して木鐸を振りふり伝えなければならない。與(とも)に共に。

わが夫子 御位なくも 患へむや 天は夫子を 木鐸(ぼくたく)とせむ
 (見尾勝馬『和歌論語』)

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