今月の論語 (2022年5月)
見義不為(けんぎふい)

義(ぎ)を見(み)て爲(な)さざるは
勇(ゆう)無(な)きなり。

見義不爲、無勇也。
(為政第二、仮名論語二二頁)

〔注釈〕(先師が言われた。)「正義だと知りながら行わないのは、勇気がないのだ」

会長 目黒泰禪

 「我々は生きるべきか、死ぬべきか。その答えは明らかに生きるべきだ」とシェークスピアの名言を引用して語り、「私には必要なものがある」とキング牧師の有名な演説をもじって訴え、「ヨーロッパに今ある壁を壊してほしい。戦争を止めてほしい」、「ウクライナに対する侵略の津波を止めるために、ロシアとの貿易を禁止してほしい」、「ロシアは拒否権を『人々に死をもたらす権利』に変えようとしている」と述べた。それぞれ英議会、米議会、ドイツ連邦議会、日本の国会、国連の安全保障理事会におけるゼレンスキー大統領の演説である。一方、プーチン大統領はロシア政府テレビ会議で「特にロシア民族はそうなのだが、いかなる民族も真の愛国者たちと裏切り者を区別でき、たまたま口の中に入ったハエのように、やつら(裏切り者)を吐き出すことができる」と語った。

 かたや各々の国民に最も知られた名言や単語で訴え、かたや自国民に対して耳を洗いたくなるような言を放つ。厳しい言論統制下にあるロシア国内では、ウクライナの指導者と自らが選んだ指導者の演説を比較できない。しかし国民をハエに例える悪口(あっこう)で異常さは察知できるであろう。ゼレンスキー大統領の豊かな語彙と表現から、善き側近とブレーンに恵まれている指導者像がうかがえ、プーチン大統領の異様とも思える表現から、猜疑心の強い孤独な独裁者の姿が目に浮かぶ。国外に住むロシア人や、国内にあって世界の報道を見ることができるロシア国民は皆、不正義、不条理な「プーチンの戦争」と知っている。ロシア国連大使のネベンジャ氏と日本語を話す駐日大使のガルージン氏のしぐさに、記者からの質問に対して、曖昧にとりつくろわねばならない苦しさが見え隠れする。

 『論語』に「義(ぎ)を見(み)て爲(な)さざるは勇(ゆう)無(な)きなり」(為政篇)とある。今、自らが選んだ大統領の望んだ戦争「プーチンの戦争」を止めなければ、ウクライナ国民にだけでなく世界の人々に、毎日毎日報道される画面と共に、「ロシア人の戦争」として脳裡に刻まれる。ウクライナの何の罪もない一般市民、か弱い子供や女性までも残忍に殺してゆくロシア軍の凄惨な行状は、後々の世までウクライナの人々の記憶から消えないであろう。「プーチンの戦争」と知ったロシア人は、直ちにロシアの国の内側から、この戦争を止める行動を起こしてほしい。

神ならぬ 神を祭りて 諂(へつら)ふは 義なく勇なき 人と君知れ
(見尾勝馬『和歌論語』)

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