今月の論語 (2021年11月)
不可階升(ふかかいしょう)

夫子(ふうし)の及(およ)ぶべからざるや、
猶(なお)天(てん)の階(きざはし)して
升(のぼ)るべからざるがごときなり。

夫子之不可及也、猶天之不可階而升也。
(子張第十九、仮名論語三〇五頁)

〔注釈〕(子貢は言った)「先生に及ぶことのできないのは、ちょうど天に梯子をかけて上ることができないようなものだ」。

会長 目黒泰禪

 孫弟子の陳子禽(ちんしきん)が子貢(しこう)に向かって「貴方は謙遜が過ぎます。孔先生がどうして貴方より優れておりましょうか」と言った。子貢は「君子はたった一言(ひとこと)で知者とも愚者とも見られるものだ。言葉はくれぐれも慎まなければならない。先生に及ぶことのできないのは、ちょうど天に梯子をかけて上ることができないようなものだ」(子張篇)とたしなめた。

 今年九月十五日に宇宙旅行者四名を乗せた米国スペースX社の宇宙船「クルードラゴン」が打ち上げられ、約三日間の地球周回飛行を終えて十八日帰還した。世界初の民間人のみの宇宙旅行である。この時の宇宙空間には、「国際宇宙ステーション(ISS)」にJAXA星出彰彦宇宙飛行士を船長とする七名が長期滞在していた(今現在も)。加えて、中国独自の宇宙ステーション「天宮」を建設するため六月十七日に打ち上げられた「神舟十二号」の中国人宇宙飛行士三名もまた、九月十七日の地球帰還までその基幹施設に滞在していた。子貢が「階(きざはし)して升(のぼ)るべからざる(不可階升(ふかかいしょう))」と表現した天に、少なくとも三日間同時に、十四名もの人類が滞在していたのである。因みに民間の宇宙旅行者は今回が初めてではない。米国スペースアドベンチャーズ社が二〇〇一年からロシアの宇宙船「ソユーズ」で空席になっている三番目の座席を活用して、ISSに一週間程滞在の宇宙旅行サービスを提供している。約二十五億円の旅行代金で既に十一人もの富豪が宇宙旅行をした。この度の「クルードラゴン」もシステム企業創業者が四席を一括購入して三人を招待した。費用は約六十億円とも言われている。

 六十年前の一九六一年四月二十一日、旧ソ連の有人宇宙船「ボストーク一号」で人類最初の宇宙飛行したガガーリン少佐は、「地球は青かった」という有名な言葉と「天には神はいなかった。あたりを一所懸命ぐるぐる見まわしてみたがやはり神は見当たらなかった」の言葉を残した。一九六九年七月二十日、米国「アポロ十一号」で人類初の月に降り立ったアームストロング船長の第一声が、「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍」である。はしゃぐ富豪の声はともかくとして、中国の宇宙飛行士の言葉を是非聞いてみたい。千古の昔の「宇宙洪荒」も、当世は「没有神、只有習」であろうか。

 雲(くも)の上(うへ) 升(のぼ)る御階(みはしご) たかきにも われはたとへむ子が尊(たか)き德     (見尾勝馬『和歌論語』)

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