今月のことば (2020年5月) |
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四時行焉(しじこうえん)
子(し)曰(のたま)わく、天(てん)何(なに)をか言(い)うや、四時(しじ)行(おこな)われ百物(ひゃくぶつ)生(しょう)ず、天何をか言うや。
子曰、天何言哉、四時行焉百物生焉、天何言哉。
(陽貨第十七、仮名論語二七三頁)
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〔注釈〕先師が言われた。「天は何を言うだろうか。春夏秋冬の四季はめぐっているし、万物は自ら生長しているではないか。天は何を言うだろうか」
会長 目黒泰禪
とうとう日本でも緊急事態宣言が発令された。「人の接触機会を八割減らせば、二週間後には感染者の増加を減少に転じさせることができる」。四月七日、安倍晋三首相はこう強調した。昨年末に武漢から始まった新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、自宅待機を求められている人の数は、世界人口の約半数に当たる三十九億人を超える(四月三日付、AFP通信)。分子生物学者福岡伸一教授は「ウイルスは生物と無生物のあいだをたゆたう何者かである」と表現する。ウエットな細胞膜もなく、エネルギー代謝も行わず、しかし自己複製能力を持つウイルス。生物とするか無生物とするか未だに決着していないと言う。そのウイルスと世界中が向き合うのであるから、外出自粛も止むを得ない。特に感染すると重症化しやすい高齢者や持病のある人は、私も含めて自粛せざるを得ないのである。
京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長は三月二十六日、「桜は来年も必ず帰ってきます。もし人の命が奪われたら、二度と帰ってきません」と、花見を自粛するようメッセージを発信している。そのような思いで庭や近くの公園を眺めると、赤い木瓜(ぼけ)と黄色のレンギョウ、白いこぶしや桜、何ら変わることなく春を競演している。孔子の「天何をか言うや、四時行われ百物生ず、天何をか言うや」(陽貨篇)である。花みずきやつつじも次の出番を待っている。四季はめぐっている。じっと待つしかない。
このピンチも読書の時間を長くするチャンスと前向きに捉えて、近くの図書館から多めに本を借りてきた。最近は借り出しが便利になり、神戸市中央図書館まで出向かなくても、地元の図書館を経由して借りられる。外国語大学や看護大学の専門的な蔵書も、同じく経由して予約申込みができる。著者と書名で予約して借り出した何冊かの本の中に、期せずして、近年見かけないバックラム装丁の一冊が含まれていた。手にした心地は、橘曙覧の「たのしみは 珍しき書(ふみ) 人にかり 始め一(ひと)ひら ひろげたる時」(『(「)独楽吟(ひとりたのしめるうた)』)である。その図書館も感染防止のためしばらく閉館である。まだ大丈夫。我が家の本棚で、じっと待っていた本たちがいる。
子はのらす 天語らずも 四時(しじ)動き よろづものみな よみがへりつと
(見尾勝馬『和歌論語』)
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