今月のことば (2019年7月) |
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不欲勿施(ふよくぶっせ)
己(おのれ)の欲せざる所は人に施(ほどこ)すこと勿(なか)れ。
己所不欲、勿施於人。(顔淵第十二、仮名論語一六二・一六三頁 衛霊公第十五、仮名論語二三七頁)
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〔注釈〕(先師が言われた)「自分が人からされたくないと思うことは、人もいやなのだから、それを人にしてはいけない」。
会長 目黒 泰禪
いつも持ち歩く小銭入れに、一センチ強の化石が入っている。五億年前のカンブリア紀三葉虫の化石である。小銭を出す度に、五億年という時間の長さ、殆どの動物の門(生物の分類)の先祖が出現したカンブリア紀の多様性について考えさせられる。この地球上に人として生かされている刹那、刹那の大切さも。
「プラスチックが、人間が生きた時代の化石になりつつある」と環境学者の東京農工大学高田秀重教授は警告する。霊長類学者の京都大学山極壽一総長もまた「人類の時代としての地層に、プラスチックと放射能が残ってしまった」と語る。
ペットボトルやレジ袋といったプラスチックは購入後すぐに用済みとなる。先進国では多くがリサイクルされるか焼却される。ごみの収集体制が整わない新興国や途上国では、捨てられて川から海に流れ出る。海への流出はアジアからが最も多く、毎年少なくとも八百万トンが流れ込む。海流によってプラスチックごみが集まる海域を「太平洋ごみベルト」と呼ぶが、その面積は日本の国土の四倍にもなるという。このプラごみは海を漂流するだけではない。紫外線や波の力で微細に砕かれ、魚介類やプランクトンが餌と間違え食べてしまう。東京湾で捕れたカタクチイワシを調査した高田秀重教授は、八割近くからプラスチック片が見つかったとして、「魚介類を食べた鳥や人間にも悪影響がないとは言いきれない」と言う。一方、米アリゾナ大学などの研究グループは、米国や英国など世界十三ヶ国の水道水でマイクロプラスチックが検出されたと警告。また韓国仁川大学と環境保護団体も、世界各地の塩を調査して、二十一の国・地域の塩の九割にマイクロプラスチックが検出されたと発表した。魚が頻繁に食卓に上る我が家は、疾(と)うにマイクロプラスチックで汚染されているということか。
五月十日、有害廃棄物の国際的な移動を規制するバーゼル条約の締約国(参加国)会議で、汚れたプラごみを輸出入の規制対象とすることが決まった。この規制案をノルウェーと共同で提案した日本は、汚れてリサイクルができないプラごみを中国やアジアの国々へ輸出してきた経緯がある。輸入国で処理がなされないまま放置され、海に流出するなど環境汚染が問題となっていた。六月二十八、二十九日に開催されるG20大阪サミットでも論議される。「己(おのれ)の欲(ほっ)せざる所(ところ)は人(ひと)に施(ほどこ)すこと勿(なか)れ」(顔淵篇、衛霊公篇)である。これを契機に一人ひとりがプラスチックに依存した生活を見直さなければならない。
今から五億年後に、新しい人類もしくは新たな知的生命体が土壌の入ったサンプル瓶を手にして、「このプラスチックで汚染された堆積層は、かつて地球上に生息したホモ・サピエンスという人類のものか。…厭離(えんり)穢土(えど)…」と。
わが胸に 欲(ほり)せざるもの 人の身に 施(ほどこ)すまじと 子やのらします
(見尾勝馬『和歌論語』)
世直し萬燈行大会 内宮前にて
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