今月のことば (2017年7月) |
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不教民戦(ふきょうみんせん)
子(し)曰(のたま)わく、敎(おし)えざるの民(たみ)を以(もっ)て戰(たたか)う、是(こ)れ之(これ)を棄(す)つと謂(い)う。
子曰、以不敎民戰、是謂棄之。
(子路第十三、仮名論語一九九・二〇〇頁)
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〔注釈〕先師が言われた。「充分に教育もしてない民を戦わせるのは、それこそ民をすてるというものだ」
気に入った一枚の写真がある。漆黒の闇に青と白が織りなす小さな地球と微かな月が浮かんでいる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「はやぶさ2」が、小惑星「リュウグウ」に向かう途中、三〇〇万㎞の彼方から地球をふり返り撮影したものである。この写真を見る度に頭を過(よぎ)る。もし地球外知的生命体(宇宙人)が存在するならば、我々と同じように、この惑星(地球)と衛星(月)を眺めて美しいと感じるだろうと。しかしきっと、彼らはこの惑星に近づかないでおこうと思うだろうとも。
「みんなどこにいるんだ」とノーベル物理学者のエンリコ・フェルミ(一九〇一‐一九五四年)がつぶやいた。宇宙人はどこにいるのだろうという意味である。地球外知的生命体は存在する可能性が高いのに、まだ出会ったことがないという事実との間の矛盾である。今年二月に米航空宇宙局(NASA)は、地球によく似た太陽系外惑星七つを三九光年先の宇宙で見つけたと発表した。そのうち三つは地球と同じように海が存在する可能性があるという。銀河系は予想以上に地球に似た惑星であふれているのかもしれない、と天文学者は言う。地球がありふれた存在であるなら、ますますもってフェルミ博士のつぶやきの通りである。
チンパンジーは殺しを命じない。自ら殺し、殺される。誰かを殺すように命じるのは、人間だけにみられる特徴である、と松村哲郎霊長類研究所教授は指摘する。所謂(いわゆる)「殺人の教唆(きょうさ)」は霊長目ヒト科ヒト属だけの特徴で、他のヒト科チンパンジー属、ゴリラ属、オランウータン属は殺しを命じない。今世紀に入っても戦争や内戦、テロは繰り返されている。ミサイルや核兵器、サリンやVXの化学兵器を玩(もてあそ)ぶ指導者達がいる。殺すように命じ、教えざるの民を率いて戦い、民を棄てる。蒙昧(もうまい)の若き民を邪(よこしま)にも自爆へと嗾(けしか)ける。「子(し)の愼(つつし)む所(ところ)は、齊(さい)・戰(せん)・疾(しつ)」(述而篇、八四頁)で、孔子は命(いのち)の重さを知っている故に戦いを慎む。
地球外知的生命体の目には、この美しい惑星に住むヒト属という名の生物が、極めて野蛮な生物と映るであろう。他の生物を殺すだけでなく、同じヒト属の殺しを命じ、ヒト属同士で殺し合う。あまつさえ自分の住む惑星さえも、汚染し破壊しようとする。ヒト属と接触しては「凶暴」というウイルスに侵される。地球という惑星にこれ以上近づいては危険であると、はるか彼方から観察しているかもしれない。七夕に彦星と織姫を見上げているが、逆に見られているのではないだろうか。観察されても恥ずかしくないヒト属でありたいものである。
敎へざる 民を戰(いくさ)に すゝむるは 民すつるなり 土塊(つちくれ)のごと
(見尾勝馬『和歌論語』)
会長 目黒 泰禪
『本年度 世直し祈願萬燈行大会にて。前列左より5人目が筆者』 |
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