今月のことば (2017年3月)
周公謂魯公曰、君子不施其親。不使大臣怨乎不以。故舊無大故、
則不棄也。無求備於一人。
(微子第十八、仮名論語二八九・二九〇頁)
〔注釈〕周公旦が魯公(子の伯禽)に向かって言われた。「人に君たるの君子は、身内の者を粗末にしてはいけない。臣下に重用してもらえないという不満をいだかせてはいけない。大きな過ちがないかぎり、古なじみを見捨ててはならない。一人の人間に何もかも備わるのを求めてはならない」
 事件は、まるでスパイ映画か推理小説のように、一台のタブレット端末から始まった。それは、もぬけの殻になった事務所の机の中に放置されていた、引越しゴミの中から見つかった、いや何者かが意図的に文書を仕込んで提供した等の諸説が飛び交った。お隣、韓国の朴槿恵大統領が職務停止に追い込まれた親友崔順実氏の国政介入事件のことである。タブレット端末とは、平板状で、キーボードがなく、液晶画面で操作するタッチパネル式の軽量パソコンのこと。昨年十月二十四日ケーブルテレビ局が、崔氏のタブレット端末に大統領の演説草稿などが保存されていたとの特ダネを報道したのがきっかけである。一気に大統領退陣の世論が形成され、崔氏や秘書官らが逮捕。検察は、その端末に保存された位置情報が崔被告の動線と一致することや、内蔵カメラでの自撮り写真が残されていたなどから「一〇〇%崔被告のもの」と断定した。十二月九日に朴大統領の弾劾訴追案が可決されて以来、韓国では大統領不在の政治空白が続く。
 「故旧大故無ければ、則ち棄てず」は、「親を施てず」と共に、友人や身内の斡旋収賄や利益供与の温床であるとも言われる。一面では、身内や友人の中で頭一つ抜きんでた才能と努力をした者が人の上に立つのであるから、身内や友人から信頼されない者が君子にはなれないのも事実である。韓国歴代大統領が政権末期や退任後に自身や身内の収賄疑惑に塗れてきた経緯があり、朴大統領も同じ轍を踏まないように、弟妹も近づけなかったと言われている。それだけに四十年来の友人崔被告に脇が甘くなったのかもしれない。古なじみが大きな過ちを犯したということである。
 一方、世界各国が戸惑う大統領令を連発する米国のトランプ大統領は、長女の夫を大統領上級顧問に任命し、企業経営者の友人をどしどし任用する。南シナ海へ海洋進出する中国の習近平国家主席もまた、文革や学生時代の知己のものを多く登用する。「故旧不棄」は、要はその故旧の素質次第ということか。
  親施てず 大臣をたのめ 友すてず
またきを一人に 求むるなかれ
           (見尾勝馬『和歌論語』)
論語普及会副会長 目黒泰禪

Copyright:(C) 2012 Rongo-Fukyukai. All Rights Reserved.