今月のことば (2016年10月) |
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子曰わく、政を爲すに を以てすれば、譬えば、北辰
其の所に居りて、衆星之に共うが如し。
(為政第二)
子曰、爲政以 、譬如北辰居其所、而衆星共之。(爲政第二・仮名論語一一頁 |
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〔注釈〕先師が言われた。「為政者が仁の心から発する恕の政治を行なえば、たとえば北極星が真北に在って動かずに、多くの星々がそれを中心にめぐっているように、その徳を慕って民が集まってくるものだ」
論語普及会副会長 目黒泰禪
孔子の生きた時代は、夜空がずっと暗く、星がもっと輝いていた。諸国を経巡った十四年間は、必ずしも屋根の下でゆっくり眠るということは出来なかったであろう。むしろ瞼を開ければ満天の星という野営、野宿が度々あったに違いない。「北辰其の所に居りて、衆星之に共うが如し」というから、北の空を長い時間見上げていたのであろう。「嗚呼、あの北極星のように仰ぎ見られ慕われる殿様がいてくれたなら」との、吐息が聴こえてきそうな章句である。
国際ダークスカイ協会が、現在地球上で、世界一綺麗な星空と認定しているのは、ナミビア共和国のナミブ砂漠、ニュージーランドのテカポ湖周辺、アイルランドのアイベラ半島の三ヶ所である。肉眼で見える星の数は四千個にもなるという。日本の郊外ではその半分の二千個位であろうか。あろうかと言うのも、私の老いた眼では、その十分の一さえ見ることが出来ないからである。
それでもこの眼でしばしば星を見る。その訳が二つある。一つは昨秋のこと、囲碁教室の老先生が、明けの明星を見て勉強すると良く覚えられる、囲碁も上手になる、と子どもにお話しされていると耳にした。我々の歳になると夜明け前に目が覚める。私も外へ出て金星を見ることにした。安岡正篤先生の『朝の論語』(明徳出版社)の第一講にも、「朝ほど爽やかで活々した時はありません。イギリスの諺にも(英文略)―〈朝こそすべて〉とあります。何よりも すがすがしきは 朝起きて 朝日に向ふ 心なりけり(明治の歌人植松有経の作)。まったくであります」とある。確かに実感できる。子どもにこそ早起きの習慣を身に付けさせたい。
二つ目は、今夏は火星が地球に接近し、その火星とさそり座アンタレスの二つの赤い星が長く競演したことによる。加えて現在、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の金星探査機「あかつき」が、五年前の失敗を乗り越えて周回軌道で探査している。更にJAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」も、小惑星「リュウグウ」を目指してイオンエンジンで順調に航行している。この『論語の友』が届く頃には、国際宇宙ステーション(ISS)へも日本からの補給船「こうのとり」が届く予定で、ISS滞在中の宇宙飛行士大西卓哉さんの活躍が期待されている。孔子でなくとも星空を見上げたくなる。
もし孔子がISSのクルーの一員ならば、ロシアのソユーズ宇宙船、米「スペースX」のドラゴン補給船や日本のH2B「こうのとり」のような地球とISSを往復するロケットを心待ちしても、彼の国から頻繁に打ち上げられる別目的のロケットには愚かさしか感じないだろう。
その名は「ノドン」「ムスダン」「テポドン」。
まつりごと なすには を もちてせよ
諸星つどふ 北辰のごと
(見尾勝馬『和歌論語』)
論語普及会副会長 目黒泰禪 |
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