今月のことば (2015年12月)
子曰、中庸之爲徳也、其至矣乎。民鮮久矣。
(雍也第六・仮名論語七八頁)
 
【注釈】孔子先生が言われた。過ぎず、及ばず、偏らない中庸の徳というものは、最善至徳のものだなあー。しかしこの最善の徳を行なう人が少なくなってもう久しいことよ。

  二十世紀に生れ育った者にとって、振り返れば正に世界中が戦乱に明け暮れた世紀であった。
 些細な人間同士の、又異民族間の爭いが、やがて国家間の爭いを惹起し、遂には世界中が二派に別れて爭う、世界戦争となった。第一次・第二次世界大戦である。日本で云えば、明治初期から昭和二十年の八月十五日、昭和天皇のご聖断によって〝矛を収める”までである。この一世紀間に命を落した者は世界中で凡そ一億人と云われる。その間只管、富国強兵・軍備増強・科学の進歩による兵器の近代化を計り、遂には核兵器という人類始まって以来の殺戮兵器が発明され、日本はその実験場と化し、広島・長崎の人々はモルモットにされた。さすがに人類もそのあまりの凄惨に、又馬鹿さに気付き、反省の色をあらわし、曲りなりにも世界の大戦だけは避けてきた。
 この一世紀の紛争要因としては、大国の侵略・覇権主義による領土拡張、又異なった主義・思想の角逐によるイデオロギー闘争等に由る。
 このような過去の爭いごとは、全て中庸を欠いた、常軌を逸した時に起っている。 人間はともすれば珍奇な現象、変ったことに刺激を求め、変らぬ常日頃に厭る傾向があるが、偏らざる中、易らない庸を持し、穏健で中正な道を歩むを心がけたいものである。

論語普及会会長 村下 好伴

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