今月のことば (2014年3月)
子夏、父の宰となりて政を問う。子曰わく、速かならんと欲すること毋かれ。小利を見ること毋かれ。速かならんと欲すれば則ち達せず。小利を見れば則ち大事成らず。
(子路第十三)
子夏、爲父宰問政。子曰、毋欲速。毋見小利。欲速則不達。見小利則大事不成。
(子路第十三・仮名論語・一九二頁)
〔注釈〕孔子の弟子の子夏(孔子より四十四才年少)が莒父という町の長官に任命されて現地に赴任するに当り、どのような政治を行えば良く治めることが出来るか、その要諦を孔先生に聞いた。すると孔先生は「速く成績を上げて功績を焦るな。又眼前の小さい利益に囚われてはならない。何事も速く成績を上げようとすると思わぬ手落ち、手違いを生じてしまい却って目標を成就できないし、目先の小さい利益に囚われると大きな目標を達成することができないものだぞ」と忠告した。

 野菜や果物を栽培するのに、一般にはまだ出廻らないうちに出荷して高値で売ろうとして、ビニール栽培や温室栽培が盛んになったが時季外れでめづらしいが、味のほうは本来の持つ自然の甘味、なんとも言えぬ旨味に欠ける。
 最近の農業は、オートメーション化された機械工場のような所で播種から施肥・潅水にいたるまで全自動化された中で栽培されている。
 先日山国に住む親戚を訪ねた時、雪の中から冬用に土で覆った野菜を掘り出して調理してくれた。その旨かったこと、〝あゝ旨い"と心で叫びつつよばれた。
 人間の大成も全く同じで親の庇護のもと、なに不自由なく育てられ、親の七光りにより若くして高位に着いたりすると、人間味に欠け人の苦労を解せず、それこそみずくさい人間に成長する。孔子も〝吾少かりしとき賤し、故に鄙事に多能なり"(「仮名論語」 子罕篇 一一三頁)「私は貧しい家に生れ幼少の頃は水汲み、薪割り、田畑の手伝い等なんでもさせられた。だから私は今だにつまらぬ仕事が色々と出来るのだ」と言っている。
 吉田松陰や西郷南洲や勝海舟などの極貧ぶりは有名であり、いにしえの聖賢たちは概ね貧苦を味わっている。
 〝貧恥ずるに足らず、恥ずべきは貧にして志無きなり"風雪に耐え紆余曲折を経てこそ眞の大成があり促成は味が乗らない。
 〝艱難汝を玉にす”

論語普及会会長 村下 好伴

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