今月のことば (2013年3月)
子曰わく、歳寒くして、然る後に松柏の彫むに
後るるを知るなり。(子罕第九)
子曰、歳寒、然後知松柏之後彫也。
〔注釈〕厳寒の冬枯れどき、大かたの木々が葉を落し裸木が並ぶ中に、松や柏は色かへず、青々と彫まずに立っている姿を知ることができる。

 ここ数年来暖冬つづきで、阪神間では溜め水の凍てることも見ることがなかったが、今年はさすが久々に庭の水槽に氷の張る姿を見る。こんな時思い浮ぶのがこの句である。
 吉田松陰はこの章の解説で孟子の「天の將に大任を是の人に降さんとするや、必ず先ず其の心志を苦しめ、其の筋骨を労せしめ、其の体膚を飢えしめ、其の身を空乏にし、行其の爲す所に拂乱す。心を動かし性を忍び、其の能くせざる所を増益せしむる所以なり」を引いて「雪中の松柏愈々青々たり」と喝破している。彼は松下村塾の柱聯に 「萬巻の書を読むにあらざるよりんば、いずくんぞ千秋の人たるを得んや」(萬冊の書物を読破するような者でなくて、どうして後生に名を留め得ようか) 「一己の労を軽んずるにあらざるよりんば、いずくんぞ兆民の安きを致すを得んや」(己れ一個の労力は顧みず、公のために一身を擲つ者でなくて、どうして人民の安泰を謀ることができようか)と記し塾生を鼓舞奮勵した。
 人間の大成は多々艱難辛苦のトンネルをくぐり抜けた後に與えられる。聖賢偉人みな然り。孔子の弟子たち、曽子、子路、閔子騫皆然り、顔回に至っては孔子をして「人は其の憂に耐えず」とまで嘆じさせたほどの極貧に甘んじつつ、ひたすら学問を楽しんで已まなかった。子路が弟弟子の子羔を費という街の長官に推薦しようとした時、孔子は「年のいかぬ者を顕官に着けたらあの子の将来を駄目にしてしまうぞ」とたしなめている。
 人間の三不幸として
 一、少年にして高科に登る。
 二、父兄の勢に席って美官と爲る。
 三、高才有って文章を能くす。
とある。
 なにごとも促成は水くさい。じっくり熟成させ、大器晩成こそなんとも云えぬ真味を醸すものである。

論語普及会会長 村下 好伴

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