今月のことば (2012年8月)
子曰わく、人にして遠き慮無ければ必ず近き憂有り。
(衛靈公第十五)
 岩礁まで数えると六千以上の島々から成るのが日本列島だそうで文字通り海に浮かぶ島国である。国土の創造からして、神話では伊耶那岐命・伊耶那美命の二柱の神が天の浮橋に立って天の沼矛を海に挿し立て、その周りを互に反対方向にこうろこうろと唱へながら廻り合いかきまぜてお生みになり、次々と大八島、つまり日本列島をお作りになったと言う。 
 遠く元寇の役では十数万の元軍の襲来を神風と稱する台風にも助けられ、よく水際で喰い止めた。明治以後の近代戦に於ても、華ばなしい海戦は幾度か繰り広げられたが、直接本土へ上陸しての地上戦は免れた。 
 戦後になって日本人の蛋白源が動物の肉に座を譲ったが、それでも尚魚介類が占める役割は大きい。日本民族は海に育まれ、海に守られて今日がある。これまでは海と言えば魚介海産物と決めてかかって来たが、最近は海の鉱物資源が俄然脚光を浴びている。イギリスの北海油田、日本近海では東支那海日中中間附近の海底油田の採掘(これはわが国は中国に先を越され、すでに中国が採掘している)。 
 これまで中国からの輸入に頼っていたハイテク製品に欠かせないレアアース(希土類)が、日本最東端の南鳥島周辺(排他的経済水域・EEZ内)の海底の泥に大量に含まれていることが東大の研究チームによって発見されたと言う。その埋蔵量は我が国使用量の二百年超とのこと、この採掘が実現すれば、中国からの輸入依存から脱却できる。 
 四面海に囲まれた我が国は、将来色々の資源を必然的に海へ求めることになろう。十数億の民を抱える中国は、広大な大陸を擁しながらも、一方で着々と海洋への進出を企て、太平洋島嶼諸島の国々に経済援助などを行い、布石を投じておるという。かっては南洋諸島を信託統治した実績のある我が国こそ、もっともっと海に重点を置き、海洋国日本の本領を発揮して行くべきではないか。島を単なる点と見ず、周囲の海域を含め面と捉えて、レアアースに止まらず、恐らく色々の資源が無尽蔵に包含していると予想される海へと進出し、子孫に対し海こそ未来の資源宝庫たることを知らしめるべきである。

論語普及会会長 村下 好伴

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