今月のことば (2011年8月)
子曰わく、仁に里るを美と爲す。擇びて仁に處らずんば、焉んぞ知なるを得ん。(里仁第四)
“絆”の復権


東北大震災から五ヶ月が過ぎ、季節は炎暑の夏を迎えた。未だ復興の目途は遅々として立っておらず、被災者の多くが避難所生活を余儀なくされておるのは痛ましい限りであり、歯痒くもある。

それにしても東北の皆さまの我慢強さ、粘り強さは只々敬服するばかりだ。家は流され家族は引き裂かれ、一切を津波に押し流され、着の身着のまま身一つで九死に一生を得た人々が、愚痴も言わず必死で耐え、いや救援者へ感謝のことばをさえ発し、若きは老を労わり、ひもじい中を分け合い、禮儀正しく謙虚にそしてけなげに生きておられる。この姿は全世界の人々に感動を与え、尊敬のまなこで見られている。

人間は裸一貫になった時如何に処するか。それこそがその人の真価を現わす時であろう。この度の大災害では、東北の人々はその美質を美徳をいかんなく発揮した。

『仁に里るを美と爲す』

おそらく避難者のみなさんは一刻も早く元の故郷へ歸りたい、必ず歸るんだと決意しその時を待っておられるであろう。東北の太平洋沿岸は、日本三景の一松島をはじめ、実に風光明媚な海岸線が続く。加えてこの度人情濃やかな『仁の里』たることを改めて実証した。擇びて仁に處らずんばどうして知恵者と言えよう。『歸りなんいざ』というところか。

戦後の日本は物質文明の爛熟に反比例して、占領政策と相俟って欧米的個人主義の風潮が進み、子は親とともに住みたがらず、ワンルームマンションに一人暮しを楽しむ若者が増え、核家族化が進んでしまった。国の政策さえその風潮を助長しようとしているように見える。

しかしあたかもそんな風潮をあざ笑うがごとく、この度は俄然『絆』ということばが大きくクローズアップされた。人間は絶対的危機に瀕した時、最後に頼るのは絆であろう。親子の絆、夫婦の絆、隣人の絆、そして同邦の絆である。

日本はこの小さい島国にほぼ単一の民族が一大家族のように形成し生きてきた。厳しい国際環境の中で、一重に民族の絆こそが將来の盛衰を決すると申して過言ではないか。
改めて絆の重みに気づかされた。

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