今月のことば (2011年7月)
子曰わく、人にして遠き慮無ければ、必ず近き憂有り。(衛靈公第十五)
災い転じて福となす  震災を機に百年の計を

三月十一日の東日本大震災から三カ月を迎えようとしているが、十万人の自衛隊を投入し、全国から消防団や警察、医療チーム、数万人の民間ボランティアの人々が救援にかけつけ、懸命の復旧作業に当たってくれている姿は実に尊い働をしてくれており、有難く感謝の至りであるが、そのわりに目に見える復旧ぶりが残念ながら見えてこないのが、実状ではないか。余りの広範囲に及ぶ災害故に…、と言えばその点も確かに頷けるが、それにしてもこういう危急存亡の時の国の迅速な対応がなにより望まれる。成果はともかく、こんな時こそ上の者の奮闘ぶりと覚悟が見えてこそ、国民に伝わって被災民の奮発心を促す原動力となるのだが、その気概が感じられない。お役人のお役所仕事で処理している感がしてじれったい。平沼赳夫氏は関東大震災の折の内務大臣後藤新平に倣って、『この際もっと迅速且つ壮大な復興構想を描け』と政府を叱咤しておられる。

遠く南米の沖合に発生した地震の津波までが襲う東北地方は、数十年毎に津波の被害を蒙っておる。もう過去の未開の頃の日本ではない。政官民一体となって国民の叡智を振り搾り、今度こそ、根本的に、広範囲に、そして永遠的施策を講ずべき時と受け取るべきだ。一被災者の声に『もうこの海岸地帯に住むのは諦めて高地に家を建て、海への道路を敷いて自動車で通うようにしたい』と述べていたが、根本的、永遠的施策を考える上に大きな示唆を與えているように思える。地盤沈下によって未だに冠水したままの所を見ると切実に痛感させられる。

悲惨極まる災害ではあったが『禍転じて福となす』天が日本人に下した試練であり、反省から進歩向上へのステップと受け取り、我らの子孫に“よくぞやってくれた。我らの先祖こそ我らの誇りである”と思われるような叡智と働きを残そうではないか。この震災によって計らずも世界最古の一君萬民の国柄、それによって培われた国民性の真価が、全世界の人々に尊敬と信頼のまなこで受け取られている、この美質を軸に更なる発展の契機としたい。

天つ日の恵み積みおく無盡蔵
    鍬でほり出せ鎌でかりとれ

                    (二宮尊徳)

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