今月のことば (2011年3月)
子貢、政を問う。子曰わく、食を足し、兵を足し、民之を信にす。(顔淵第十二)

〔注釈〕孔子門下で最も利発で秀才型の子貢が孔先生に「立派な政治を為すために最も心がけるべき要道はどんなことでしょう」孔子は「人民の腹を満たしてやるため食糧を豊かにし、外敵の侵入を防ぐため強力な防衛軍を構えて国民を安心させ、そして何よりこの政府ならば任せよう、従いて行こう、と人民から信頼を得ることこそが政治家としての根本要諦だ」と。
信無くんば立たず


孔子のこの言葉を基に我が国の現状を考察してみよう。

一、食を足す―何を言っとるか、食を足すどころか、飽食至らざるなく、過食による糖尿病などの成人病が激増しているではないか。と言われそうだが、ちょっと待って。その裏の供給源を考えてみよう。国内で賄う食糧は全消費量の僅か三十数%、他は外国からの輸入に頼っている。どこかの国が飢饉に見舞われ、輸出どころではなくなったら?またどこかの国のご都合でシーレーンを封鎖されたら?こう見てくると、貴方まかせ、その日暮らしの飽食ではないか。しかもここまで贅食に慣らされた国民は、耐久力が乏しくなってしまっている。休耕田どころか、食糧増産、農業人口増加を計らねば安心が得られないのでは…。

二、兵を足す―戦後の日本は日米安保条約におんぶにだっこで、血を流さずに安閑として過ごしてこれた。しかし俄然昨年あたりから近隣大国の覇権主義・野望がちらつきはじめた。北方領土へのロシア首脳の訪問、尖閣諸島での中国漁船衝突事件などは、明らかに日本政府の対応度・本気度・国民の気概度を験すジャブであったように思える。そしてなによりアメリカの反応・動向を見極めることこそが本意ではなかったか。孫子や呉子を編み出した国のこと、決して単刀直入に兵を向けるような愚かなことはしないだろうが、遠大な野望の下、着々と侵蝕を企てているように見受ける。現に海軍力の飽くなき増強を計り、南沙諸島の現状を見ればその意図は明らかである。四面を海に囲まれた日本、今こそ海軍力の拡充を計らねば、それこそ夜もおちおち眠れぬ日が来かねない。備えあれば憂いなし。

三、民之を信にす―この言葉を見ると、終戦当時の情景が浮かびくる。焦土と化した国土で飢えに苦しみながら戦い、あえなくも敗戦のうきめを見たのであったが、名もなき国民が三々五々宮城前広場に来て砂利の上に正座し、涙ながらにひれ伏して天皇陛下に敗戦のお詫びをしていたのであった。それにひき比べ他の敗戦国の情景は、後々ニュースで見たのであるが、人民が戦争責任者たちを自らの手で吊るし上げ、処刑していた。この違いはどこに有るのか、単一民族で、万世一系の天皇家を大宅としてそのもとで国民が信じ合って生きて来たからこそではなかったか。なんの資源もない小国が、世界の大国を相手によくもまああれだけ戦ったものだと驚かしたのも、敗れたりとはいえ、奇蹟と言われる復興を遂げ得たのも、省みて所詮『信』の力ではなかったか。そして今や内憂外患至らざるなき閉塞感に覆われた現状を打破する力も、『信』より出づるのである。

Copyright:(C) 2012 Rongo-Fukyukai. All Rights Reserved.