今月のことば (2008年12月)
子、温にして獅オ。威にして猛からず。恭にして安し。(述而第七)
孔徳成先生のご逝去を悼む

去る十月二十八日午前、孔子第七十七代直裔孫・孔徳成先生が逝去されました。先生は国民党政府と共に台湾にお移りになり、以来台湾の考試院(日本の人事院に当る)の院長など重要な公職に就かれ、片や台湾大学に於て教鞭を取っておられました。御歳八十八歳でした。

ここに慎んで哀悼の意を表する次第です。
孔徳成先生と本会とのご縁は格別なものがございまして、故安岡大師と先生との親縁に端を発し、伊與田先生とは論語を通じ文を以て会され、語らずして相通ずる心交を結ばれました。中でも四條畷の山中に在りました成人教学研修所へは、前後四度に亘り御来臨を仰ぐことが出来、両家のご親交はまるで家族の如く寝食を共にして過ごされたのでした。我ら不肖の弟子たちもその都度上山し、まるで論語に出てくる弟子達の態よろしく、遠慮もなく侍座し、さながら二千五百年前にタイムスリップしたような親しみ溢れる師弟の厚情を交わさせていただいたのでありました。

また一方、こちらから台湾に渡り、台北の孔子祭に参列する行事もすっかり恒例となり、この方は今年で三十四回を数えるに至りました。孔徳成先生は釋奠の奉祀官として大へんご多忙の最中でしたが、その前日か前々日に必ず一席を設けご招待申しておりましたが、これまたご臨席賜り、われらと一つテーブルを囲み親しく晩餐の宴を楽しみ合ったのでした。

このような先生の膝下に侍座するという得難い数々の勝縁を賜り振り返ってみて先生のおからだから発せられる無限のみ教を賜りました。先生は、恭敬・礼譲・仁慈・信義・親愛など凡そ人間として備えるべき最高の徳目を身をもって教えて下さいました。先生のこのご風格ご風韻を一語で表しますならば、やはり論語の中で弟子の誰かが孔子を評しております『子、温にしてし。威にして猛からず。恭にして安し。』に尽きるように思われます。只日本人から見て一つ加えさせていただきますならば、『君子は坦かに蕩蕩たり』。つまり大陸的老大人を彷彿させられました。

もれ承りますところ先生の御直孫・孔垂長先生が奉祀官をお継ぎとのこと、それに第八十代となられるご子息佑仁様が健やかにお育ちであり、先生亡き後も、二千五百数十年続きし世界に比類無きご家系ご血統は永遠にお続きになられることを信じる者であります。

中庸の中に「博厚は物を載せ、高明は物を覆い、悠久は物を成し、悠久は疆まり無し」とありますように、日本の皇室と共に継承されますことは、世界人類にとって大きな希望の灯であります。

われら論語普及会は、先生ご生前の恵まれた道縁によって賜りました数々の偉大な御遺教を身に体し、一層論語の研鑽に励み、一以て之を貫き、会風を高め、以て民風を変え、国風を変え、やがて世界の風を変える力とならんことを期するものであります。

先生安らかにお息み下さい。

ここにご生前賜りました広大なる御恩澤に対し深甚なる感謝をささげ、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

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