今月のことば (2008年9月)
孟武伯、孝を問う。子曰わく、父母は唯其の疾を之れ憂う。(為政第二)
天より高き父の恩、海より深き母の恩

孔子の云うように親は子の成長と幸せを願う余り、良いようには考えず、悪い方ばかりを先走りして想像し、心配を積み重ねるのが親である。親とは斯くも愛い存在なのである。この天より高く海より深き愛に育まれてこそ、恩や感謝や忍耐・憐憫の情などを備えて生育する。


親おもふこころにまさる親ごころ
  けふの音づれ何ときくらん   
                     吉田松陰



私ごとで恐縮だが、筆者の兄は海軍で従軍し、民間の輸送船に急拵へで武器を搭載し、仮装巡洋艦と銘打った舟に乗り込み、南方戦線へ兵士や物資を輸送する任務に当たっていたが、あの頃はすでに敗色濃く、制海権・制空権共に牛耳られており、兄の乗った舟も米潜水艦の魚雷を受け撃沈されてしまった。その際舟と運命を共にする者、海へ投げ出され浮遊物に抓って必死で泳ぎ救助を待つ者など様々だが、兄は二日間ほど泳ぎ続け、奇跡的にある小島に泳ぎ着き九死に一生を得て帰還したことがあった。その地獄図絵の模様を聞かされたが、その中で泳ぎ疲れ、やがて力尽き果て、次第に一人減り二人減り、次々に海の藻屑と消えていく。その正に沈まんとするときに叫ぶ言葉はほとんど一様に「おかあさ〜ん」だったそうだ。

十億の人に十億の母あらむも
  わが母にまさる母ありなんや
                     暁烏敏



学校教育の場で日本は悪いことをした。我らの先輩たちは悪者だったと教え込まれ、孝など教育の場から消えた中で育った人々が、早い人はすでに初老の域に来ている。この人達にも受けた教育歴史がいかに真実を歪めたものであったかに気付き反省の声も聞かれるようになってきている。ここに先月八月の靖国神社社頭に掲示された遺書を紹介しよう。死地に赴くその間際まで母を思い感謝し、孝道の誠を記め誓って出発せんとするこの崇高で純粋な人間愛敬の讃歌、いや絶唱。これこそ人間の生きる原点が歌われているように思える。

遺 書
陸軍歩兵中尉 立山英夫命
昭和十二年八月二十二日
歩兵第四七戦隊
支那河北省辛荘附近にて戦死
熊本県菊池郡隈府町出身
若し子の遠く行くあらば 帰りてその面見る迄
は 出でても入りても子を憶ひ 寝ても覚めて
も子を念ず 己れ生あるその中は 子の身に代
らんこと思ひ 己れ死に行くその後は 子の身
を守らんこと願ふ あゝ有難き母の思 子は如
何にして酬ゆべき あはれ地上に数知らぬ 衆
生の中に唯一人 母とかしづき母と呼ぶ 貴き
えにし伏し拝む 母死に給ふそのきはに 泣き
て念ずる声あらば 生きませるとき慰めの 言
葉交はして微笑めよ 母息絶ゆるそのきはに 
泣きておろがむ手のあらば 生きませるとき肩
にあて 誠心こめてもみまつれ

お母さん お母さん お母さん
お母さん お母さん お母さん
お母さん お母さん お母さん
お母さん お母さん お母さん
お母さん お母さん お母さん
お母さん お母さん お母さん
お母さん お母さん お母さん
お母さん お母さん お母さん
【八月社頭掲示】

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