今月のことば (2008年6月)
子曰わく、人にして信無くんば、其の可なるを知らざるなり。大車輗 無く、小車軏無くんば、其れ何を以て之を行らんや。(為政第二)

瀑  布
〔註釋〕凡そ人間関係に信が無ければどうしようもないね。それはまるで牛車に牛を繋ぐためのながえの端の横木が無く、馬車に馬を繋ぐためのながえの端にくびき止めが無いようなものだ。どうして車を前へ進められよう。人間に信が無いのはこのようなものだ。
中国の胡錦濤主席が来日し、友好ムードをアピールして帰られた。北京オリンピックを三ヶ月後に控え、毒入りギョーザ事件、チベット暴動弾圧やウイグル人権問題などで世界中から非難され上信を買っているさ中での来日とて、これまで来日した主席の高びしゃな姿勢と異なり、善隣友好を掲げた言動が目立った。
特に早稲田大学での講演ではこれまでの日本の援助が中国の発展に大きく寄与したと述べ、「中国人民は永遠に忘れない《と、異例とも思える強い口調で謝意を表した。
そして中日関係の歴史的チャンスとか、青少年交流の大切さを強調した。日本の経済援助に対する感謝を聞くのははじめてである。
しかし、毒ギョーザ事件に対する中国側の対応ぶり、何の相談も無く、突然微妙な領海地点でのガス田掘削、海洋国日本の近海への潜水艦の出没、果ては沖縄諸島への領有権主張など、日本人の対中上信感はなかなか拭えない。

片や中国は、十三億の民を抱えて世界の美食文化を誇っていた国が、今や穀物輸入国に転じている。エネルギー資源に至って はアフリカにまで食指を伸ばし、そのお行儀の悪さにヨーロッパの国々から顰蹙を買う有り様。金融市場はいつバブルが弾けるか分からず、国民の貧富の差は拡大するばかり。

このように食糧・エネルギー・環境・防衛問題と、この中どの一つがバランスを崩してもお互いに深刻な影響を及ぼす。

こんな時にこそ双方が腹に抱えている疑念・懸案・難問・課題を腹蔵なくさらけ出して忌憚なく真剣に討議し合う、その上で 両国の国益に叶うよう『忠恕』(真心をもって相手を思いやる)の精神を発揮し、互いの立場を尊重し合い、叡智を絞り、建設的前進的意見を構築して行く、こうあってこそ互恵の精神に基づいた真の善隣友好の外交といえるのではないか。いざ会えば表面的儀礼的微笑外交に終始するのでは、単なるセレモニーに過ぎない。

日本と中国は二千年来の交流があり、精神文化では良きにつけ悪しきにつけ固く結ばれて来た友邦であり、言葉は通じなくと も漢字では通じ合える間柄である。

もう反日侮日反中侮中などなど詰り合う時期では無い。いつまでも?無き牛車、軏無き馬車であっては何も生まれないし何も 前進しない。毒ギョーザ事件などは「過を改むるに憚ること勿れ《素直に反省の意を表し、改善の決意さえ述べれば直ちに信頼は回復すること。日本も昨年来偽が横行し、他人のことなど詰る資格は無い。

お互いに腹を割って話し合い素交による信頼を構築しなければ未来は無い。

信無くんば立たず。

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