今月のことば (2008年3月)
子曰わく、後生畏るべし。焉んぞ来者の今に如かざるを知らんや。四十五十にして聞くこと無くんば、斯れ亦畏るるに足らざるのみ。(子罕第九)
仲 春

正月が過ぎ大寒に入って数年来久々の厳しい寒波に見舞われ、聊か戸惑いを覚えながらも地球温暖化による環境の変化が懸念されているだけにややほっとする感を抱かされる気候でもあった。メディアからは、相変わらず親子殺しに象徴される陰鬱で心の隅々まで凍てついてしまいそうな報道ばかり目につく昨今、そんな時にポッと心に明かりを灯してくれるような出来事がおきた。一月二十七日のこと。一つはお馴染、なにわの国際女子マラソン。「トラックの女王」の福士加代子選手が、初めてマラソンに挑戦し、三十キロを過ぎた頃から自己の体力の限界に達し、何度も何度も転倒しながらも気力を振り絞ってその都度立ち上がり、遂に四二・一九五キロを完走し切った。スタンドの両親は勿論、観衆は総立ちで声援を送り、感動の涙を流した。

とかく戦後生まれのひ弱さが目立つ昨今にあって、久々にど根性を見た思いだった。

二つ目は同じ日に行われた大阪府知事選挙で史上最年少の橋下徹知事の誕生である。この人に関してはタレントとして名が売れていたようだが、テレビをほとんど見ない者にとっては無縁で顔さえ知らず未知の人であった。当選されて大々的に報道され初めてそのプロフィールを知った次第、そんな者が彼を論評する資格が有るかと言われそうだが、敢て言わせてもらえば、三十八才で7人の子宝に恵まれた子煩悩の父親であることだ。少子化対策担当大臣まで設けて打開に苦慮している国の現状をよそに、着々と産めよ殖やせよを実践して来られたことに満腔の敬意を表す者である。少子化問題に例え百万言を弄するよりも、この厳然たる実績を引っ提げて大阪の首長の座に着かれたことは、どれだけ若者への刺激となり、励みとなることか。「身をもって範を垂れる」とは正にこのことである。戦後の教育は、子を生むことさえ計算づくで決めるようにさせてしまった。やはり子は天からの授かりものとして、自然の摂理に従い産める時に産まねば、やがては民族の衰退を来すこと目に見えている。筆者も戦後の教育に逸早く毒された一人として、深省を込めて告白する者である。「君子は天命を畏れるが、小人は天命を知らずして畏れない」(論語李氏第十六)とあるように、小賢しい人知がいかに儚いものであるか、今になって実感させられる。

扨て就任した橋下知事の府政に対する手腕のほどは勿論未知数であるが、今のところ腰を低くして諸先輩を訪ね、意見に耳を傾けている姿に概ね好感が持てる。それに首長ともなれば民の人気を意識して、派手に目立った事業に手を付けたがるものであるが、破綻同様の府政建て直しに向け、府職員の意識改革を呼びかけ、無駄を徹底して省く、地味な緊縮政策を唱えている。「一利を興すは一害を除くにしかず。一事を生やすは一事を減らすにしかず」(耶律楚材)。あらゆる抵抗が待っていようが、忍耐を重ね、信念を貫き府政刷新の大鉈を振るわれるよう期待して止まない。

とにかく沈滞ムードの漂う中で、一月二十七日は、このパワフルな二人の若者の出現によって前途に希望の灯を見る思いがした。

「後生畏るべし」であるが、その後に「四十五十にして聞くこと無くんば斯れ亦畏るるに足らず」と孔子は付け加えられている。やがて不惑を迎える橋下氏、いよいよ研学に励まれんことを切望する。

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