今月のことば (2006年5月) |
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子路、子羔をして費の宰たらしむ。子曰わく、夫の人の子を賊わん。子路曰わく、民人有り、社稷有り、何ぞ必ずしも書を読みて然る後に学とさん。子曰わく、是の故に夫の佞者を悪む。(衛霊公第十五)
〔注釈〕孔子の愛した弟子の子路が、その後輩弟子に当る子羔を、季氏の私領である『費』という邑の代官に推挙した。それを聞いた孔子先生は「子羔はまだ若いのに、そんな大役に当てたら却って彼の人間形成のために害を及ぼすことになるのではないか」と注意した。
すると子路は、むきになって言いわけがましく「費には人民も住んでおり、社稷(土地や穀物の神)の神も立派に祭られています。これをちゃんと治めることは実践の学問ではありませんか、なにも机上で書物を読むだけが学問でありましょうや」と、これに対して孔子は「これだから私は口達者な人を悪むのだ」と子路の言い訳がましいことばを批判した。孔子の細やかな老婆心が窺える一章である。
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《大器は晩成たれ》
最近の政界は、自民党の堀エ門衆議院推挙が裏目に出たり、民主党永田議員の偽メール事件に端を発したドタバタ騒動など、余りに稚拙で乳臭いこと芬々である。姉歯建築士も含め、みな日本の将来を担うエリート養成のための最高学府東大に籍を置いた面々だが、それがこんな幼稚なことで大丈夫なのかと背筋に寒けが走り民族の活力衰退を覚える。
論語の中で孔子が絶賛した子賤という弟子があるが、「彼は立派な君子人だなあ、さぞや周囲に多くの賢人仁者良友が居て、善導してくれたからこそ彼はあんな君子人になれたのだろう」と嘆賞する箇所があるが、このことは吉田松陰も「徳を成し材を達するには、良師に恵まれ、良友から受ける益によることが多い」と言っているが、それでは前記の東大出の諸君はどんな環境に育ったのであろうか?最高学府を出ながらこの態たらくは何たることか。ここまでくると、彼ら自身より、彼らを育んだ教授連中にこそ怒りを覚える。幼少時から一流大学を目指すその為だけにする手練手管のみが学問と思って育った子供達を集め、そこで人づくりの学問はそっちのけでひたすら技術才能の学問に明け暮れているのではなかろうか。且って明治天皇が東大へ行幸遊ばされた時、憂えてお述べになった「技術の学は素晴らしいが、修身科が無い」とのご軫念が現実に噴出して来ている。
教えずして殺す、之を虐と謂う。
こんな若者を排出してしまった教授連の猛反省を促したい。彼等こそ不毛な学府の犠牲者である。宋の碩儒・程伊川は、人間の生長過程で気を付けねばならぬ三つの不幸の種がある。
一、少年時代に(なんの苦労もなく)どんどん上へ進級すること。
二、親の勢威を借りてよいポストに座ること。
三、頭がよく才能が有って文章がうまい。
これらはみな人間大成への障害であると。安岡先生はこのことを『大器晩成たれ』と述べておられる。「若い時に才があり、巧智巧弁で周囲の人からチヤホヤされるほど不幸なことはない。何ごともインスタント・促成は脆弱でものにならぬ。人間死ぬ少し前ぐらいに大成を見るぐらいが本物である」と。
東大生よ、もっと老成をはかれ。
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