今月のことば (2006年4月)
子張、行われんことを問う。子曰く、言忠信、
行篤敬なれば、蠻貊の邦と雖も行われん。
(衛霊公第十五)
《イラクで『言忠信・行篤敬』の実践》

孔子より四十八歳も若い弟子の子張が、将来官職に就いてバリバリ活躍したい夢を抱いていた頃の話であろうか、孔子に「自分が描く理想社会を実現するためにはどんなことを心がけて日々行動すれば、自分の思い通りに実行することができるでしょうか」と問うた。

孔子は「言葉が誠実で信ずるに足り、行動が篤実で軽はずみなことをせず、相手を敬して慎しみ深く行えば、例え未開の蠻地へ行っても思い通りに実行出来るだろう」と教えた。

しかも「このことが四六時中自分の念頭から離れず、執念となるぐらい思いつめたならば、お前の理想とすることが実行出来るだろう」と。

先日イラクのサマーワから次のような手紙をいただいた。

…前略…年末には英豪軍と共に餅をつき、大晦日には除夜の鐘ならぬ太鼓を叩き、宮崎から送られた甘酒を味わい、元旦には皆で初日の出を拝し、おせちを楽しみ、いわば日本よりも日本らしい正月を過すことができました。

…中略…この度の激励メッセージの黄色いハンカチを頂き誠に有難うございました。隊員を代表して御礼申し上げます。(『信無くんば立たず』と揮毫させていただいた)。

人道復興支援活動は順調に進み、第一次群からの成果が着実に積み上っています。医療については、先日母子病院から新生児死亡率が、陸自が展開する二年前と比較して三分の一に減少したとの報告を受けました。水の分野については、二ヶ所の浄水場の補修を終了し、一日一万四千トンの増水が可能となりました。また学校や道路等の補修も継続しています。

確かに一部には日本隊の活動に批判的な部分も見られますが、住民の多くは好意と期待をもっており、日本隊への評価は確実なものとなってきているという印象を受けています。これは支援そのものに対する評価に合わせ、第一次群から「イラクの人々と同じ目線」ということを大切に活動をしてきた日本隊の誠実さに対する評価だろうと感じています。

補修した学校の教室にイラクの国旗と並んで、日本の国旗が掲げられているのを見、また薄汚れた服を着て、しかし目はキラキラと輝く、そして屈託のない子供の笑顔を見ると更に努力を重ねたいという気持ちになります。

今後ともおごらず、イラクの歴史と伝統を重んじながら、希望、真心、絆をスローガンとして、日本の伝統と文化である「人を敬う」気持ちを忘れずに任務を全うしたいと考えています。…後略…

平成十八年一月吉日
第八次イラク復興支援群長
立花 尊顕


昼間は五十度を越す炎熱の中で、時には砂塵が舞い目もあけられず、テロの危険性に曝されつつ、ひたすら任務遂行に向け精励される自衛隊の皆さんに、先ずは満腔の敬意と感謝の意を表したい。

イラクの歴史伝統を重んじ、イラクの人々と同じ目線で、おごることなくイラク人を敬い、誠実に真心こめて両国の絆を強めようと日夜汗を流して下さっている。そして今や現地の人びとから駐留延期を要請されるまでに信頼を得た。これこそ孔子のいう『言忠信、行篤敬』を忠実に実践した証である。

世界が仰ぎ見る日本の特質『武士道』精神は、少なくとも自衛隊に厳存している。

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